超音波探傷試験 (UT)とは?音を利用した非破壊検査の手法を解説
超音波探傷試験 (UT)は、人間の耳には聞こえない高い周波数の「音」を使って、物質の内部にある傷や欠陥を見つけ出す検査技術です。
時速300kmで疾走する新幹線が脱線することなく、毎日正確に運行できるのか不思議に思ったことはありませんか? あるいは、巨大なタンカーが荒波にもまれても真っ二つに折れないのはなぜでしょうか。
鉄やコンクリートといった強固な材料も、長く使っていれば金属疲労を起こし、内部に微細な亀裂(ヒビ)が入ることがあります。もし、車輪の車軸や船の底板に入った亀裂を見逃してしまえば、それは大事故に直結します。
こうしたインフラの「見えない悲鳴」を、音の力で聞き分けているのが、この超音波探傷試験 (UT)です。放射線を使わずに、医師が聴診器を当てるように鉄の健康状態を診断する技術は、今の日本において最も広く行われている非破壊検査のひとつです。
この記事では、音の反響を利用して安全を守る、超音波探傷試験 (UT)について詳しく解説します。
超音波探傷試験 (UT)とは?

「超音波探傷」と聞くと、ハイテクで難しそうな響きですが、その原理を一言で表現するならば、こうなります。
「産業界の魚群探知機(または、やまびこ)」
皆さんは、山に向かって「ヤッホー」と叫んだことはあるでしょうか? 声が山にぶつかって、「ヤッホー」と返ってくる、あの「やまびこ(エコー)」です。
超音波探傷試験 (UT)の原理は、まさにこの「やまびこ」と同じです。
また、もっと身近な例では、妊婦健診で使う「エコー検査(超音波診断装置)」があります。お腹にゼリーを塗り、機械を当てると、モニターに赤ちゃんの姿が映し出されますよね。あれは、お腹の中に向けて超音波を発信し、赤ちゃんに当たって跳ね返ってきた音を映像化しているのです。
産業界で行うUTも、これと全く同じことをしています。
探触子(マイク): 鉄の中に向かって「音(超音波)」を出します。
鉄の底や傷(反射源): 音がぶつかって跳ね返ります。
モニター(表示器): 跳ね返ってきた音を波形として表示します。
鉄の内部に「ヒビ割れ」がある場合、底まで届くはずの音が、途中のヒビ割れにぶつかって、予定より早く跳ね返ってきてしまいます。「おーい」と叫んで、遠くの山から返ってくるはずの声が、近くの壁に当たってすぐに返ってくるようなものです。
検査員は、この「音が帰ってくるまでの時間」と「音の強さ」を読み取ることで、「表面から〇〇ミリの深さに、これくらいの大きさの傷がある」と判断しているのです。
超音波探傷試験 (UT)の仕組みと原理
では、実際の検査現場ではどのように作業が進められるのでしょうか。ここでは、ビルの建設現場で、鉄骨のつなぎ目(溶接部)を検査するシーンを想定して解説します。検査は、主に以下の4つのステップで行います。
前処理(接触媒質の塗布)
まず、検査したい鉄骨の表面に、専用のオイルやゼリー(接触媒質)をたっぷりと塗ります。
実は、超音波は「空気」がとても苦手です。空気中ではすぐに弱まってしまうため、探触子(センサー)と鉄骨の間にわずかでも隙間があると、音が鉄の中に入っていきません。妊婦健診でお腹にゼリーを塗るのもこれと同じ理由で、空気の層をなくして音の通り道を作るためです。
探傷(音の送受信)
準備ができたら、「探触子(たんしょくし)」と呼ばれる手のひらサイズのセンサーを鉄骨に押し当て、前後左右に動かします。探触子からは、人間の耳には聞こえない数メガヘルツという非常に高い周波数の音が発射されます。音は鉄の中を真っ直ぐ進み、底面や傷に当たると反射して戻ってきます。
表示(波形の観察)
戻ってきた音(エコー)は、電気信号に変換され、検査器のモニターに「波形」として表示されます。心電図のようなギザギザした山がモニターに現れます。
何も傷がなければ、鉄骨の「底」から返ってきたエコーだけが表示されます。しかし、途中に傷があると、底のエコーよりも左側(浅い位置)に、予期せぬエコー(欠陥エコー)がピョコンと立ち上がります。
評価(合否判定)
検査員は、モニターに現れた波の高さや位置を読み取ります。「この位置に波が出たということは、深さ20mmのところに傷がある」「波が高いから、傷は大きいかもしれない」と分析し、JIS規格などのルールに照らし合わせて、その溶接が合格か不合格かを判定します。
使用される装置の種類
現場で使われる「超音波探傷器」は、首から下げられるポータブルな箱型の機械が一般的です。
昔はブラウン管の画面でしたが、現在はデジタル液晶画面を備えた軽量なものが主流です。探触子(センサー)には様々な種類があり、真下に音を出す「垂直探触子」や、斜めに音を出して溶接部を狙う「斜角探触子」などを、傷の種類によって使い分けます。
超音波探傷試験 (UT)と他の試験との比較
非破壊検査の代表格である「放射線透過試験 (RT)」と比較することで、UTの特徴がより鮮明になります。
| 比較項目 | 超音波探傷試験 (UT) | 放射線透過試験 (RT) |
|---|---|---|
| ① 傷の位置 | 内部の「平らな傷」が得意 (ピシッと入った亀裂や割れ(面状欠陥)に音は敏感に反射する) | 内部の「体積のある傷」が得意 (気泡のような丸い欠陥がよく写るが、薄い割れは透けやすい) |
| ② アクセス | 片面のみで可 (跳ね返ってきた音を拾うため、裏側に回る必要がない) | 両面へのアクセスが必要 (線源とフィルムで対象を挟む必要があるため) |
| ③ 材質 | 音を通す材質に限定 (主に金属。コンクリートや鋳物は音が乱反射するため難しい) | ほぼ全ての材質に適用可 (金属、非金属問わず密度差があれば写る) |
| ④ 結果記録 | 波形や数値が基本 (その場で検査員が判断する要素が強い。証拠能力はRTに劣る場合がある) | 画像データとして残る (誰が見てもわかる客観的な証拠としてフィルムが残る) |
| ⑤ ハードル | 比較的安全 (人体に無害な音波を使うため、隣で別の作業ができる) | 安全管理が大変 (放射線を使うため、立入禁止区域の設定が必要) |
この表からわかるように、UTの最大の強みは「片側から検査でき、放射線を使わないため安全かつ手軽」という点にあります。
超音波探傷試験 (UT)のメリットとデメリット
手軽で強力なツールである超音波探傷試験 (UT)ですが、もちろん得意なことと不得意なことがあります。
超音波探傷試験 (UT)のメリット
最大のメリットは「安全性」と「即時性」です。
放射線を使わないため、検査員が被ばくする心配もなければ、周囲の人を避難させる必要もありません。建設中のビルや稼働中の工場など、人が多くいる場所でも昼間に堂々と検査ができます。
また、結果がその場ですぐに分かります。RTのように現像を待つ必要がないため、「ここに傷があるから、すぐに直して」と、スピーディーな現場対応が可能になります。
さらに、「厚みのある物」の検査には圧倒的な強さを発揮します。放射線では透過しきれないような分厚い鉄板でも、超音波なら数メートル先まで届き、その内部を探ることができます。
超音波探傷試験 (UT)のデメリット
一方で、弱点もあります。一番の課題は「表面の状態」に左右されることです。
超音波をスムーズに入射させるには、検査面が滑らかである必要があります。表面がザラザラしていたり、錆びてデコボコしていたりすると、音が乱反射してしまい、正しく検査ができません。そのため、検査前に錆を削り落とすなどの「前処理」が必要になることがあります。
また、結果が「波形」でしか出ないため、それがどのような形の傷なのかをイメージするには、検査員の高度な知識と経験が必要です。RTの写真のように「誰が見ても分かる」ものではないため、検査員の腕によって結果にバラつきが出る可能性があるのも事実です。
さらに、ごく表面(数ミリ程度)の傷は、発信した直後の音の振動に埋もれてしまい、見つけにくい「不感帯」となることがあります。
超音波探傷試験 (UT)の具体的な活用事例
UTは、その安全性と機動力を活かし、私たちの生活のあらゆる場所で活躍しています。
1. 鉄道の車軸とレールの検査
新幹線の安全神話を支える最も有名な事例です。
車両基地では、専用の超音波検査装置を使って車軸の内部を検査しています。車軸を分解することなく、中空になった車軸の内側から超音波を当て、金属疲労による亀裂がないかを定期的にチェックしています。また、レールの上を走りながら超音波でレールの傷を探す「レール探傷車」も活躍しています。
分解せずに、厚みのある金属内部の「割れ」を見つけるには、UTの技術が欠かせません。
2. 鉄骨造ビルや橋梁の溶接部検査
ビルや橋を建設する際、鉄骨同士をつなぐ溶接作業が行われます。この溶接がきちんと内部まで溶け込んでいるかを確認するために、UTが全数検査に近い形で行われます。
建設現場は多くの作業員が同時に働いています。放射線のように立入禁止区域を作る必要がないUTなら、他の工事を止めることなく安全に検査が進められるからです。
3. プラント配管の「肉厚測定」
傷を探すだけでなく、「厚さを測る」のもUTの得意技です。
石油プラントや発電所の配管は、中を通る流体によって内側から徐々に削られていきます(腐食減肉)。外側からは綺麗に見えても、実は皮一枚の薄さになっているかもしれません。
配管の外側から超音波を当て、底面から返ってくる時間を測れば、現在の厚みが0.1ミリ単位で分かります。稼働中の設備を止めずに、外側から診断できるため、メンテナンスには欠かせない技術です。
社会を支える超音波探傷試験 (UT)の重要性
超音波探傷試験 (UT)は、医師が聴診器で体の音を聴くように、産業インフラの「声なき声」を聴く技術です。
最後に、この記事で解説した超音波探傷試験 (UT)に関する情報を一覧にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手法の正式名称 | 超音波探傷試験 (Ultrasonic Testing: UT) |
| 検出原理 | 音の反射(反響)を利用し、傷からのエコーを波形として捉える。 |
| 主な検査対象 | 音を通しやすい物質(主に鉄鋼などの金属)。 |
| 発見できる傷 | 内部の面状の傷(亀裂、割れ、溶け込み不良など)。 |
| 最大の長所 | 放射線を使わず安全。片面から検査可能。結果が即時に分かる。 |
| 主な弱点 | 表面が粗いと検査できない。検査員の技量に依存しやすい。 |
