放射線透過試験 (RT)とは?私たちの日常を守る非破壊検査の手法を解説
放射線透過試験 (RT)は、私たちの生活を支えるインフラや工業製品の内部にある、目に見えない欠陥を見つけ出すための検査技術です。地中に埋められたガス管の目に見えないほどの小さな隙間や、毎日何千台ものトラックが走り抜ける鉄橋の溶接部分の亀裂などを見つけ出します。
私たちの日常に近い場所で「見えない恐怖」から社会を守り続けているのが、この放射線透過試験 (RT)です。金属の厚い壁を透視し、肉眼では決して見ることのできない内部の欠陥を見つけます。
この記事では、放射線透過試験 (RT)について詳しく解説します。
放射線透過試験 (RT)とは

「放射線透過試験」という専門用語が並ぶと、難解で近づきがたい印象を受けるかもしれません。しかし、その原理を一言で表現するならば、こうなります。
「産業界のレントゲン検査」
皆さんも一度は、健康診断や怪我をした際に病院で「レントゲン撮影」をした経験があるでしょう。息を吸って止めている間に、目には見えないX線が体を通り抜け、骨や肺の状態を写真に写し出します。放射線透過試験 (RT)は、この医療用レントゲンとまったく同じことを、人間ではなく「鉄」や「コンクリート」に対して行っています。
この仕組みを直感的に理解するために、子供の頃に遊んだ「影絵」を思い出してみてください。影絵遊びには、以下の3つの要素が必要です。
懐中電灯(放射線源): 光を出します。
手(検査対象): 光を遮ります。
壁(フィルム): 影が映ります。
懐中電灯の光を手に向けると、壁には手の形の「影」ができます。これは、光が手を通り抜けることができないからです。しかし、もし手に穴が空いていたらどうなるでしょうか? 光はその穴を通り抜け、壁のその部分だけが明るく光ります。
RTもこれと同じ原理です。非常にエネルギーの強い「見えない光(放射線)」を金属に当てます。もし金属の内部に「気泡」や「ひび割れ」といった空洞があれば、そこは金属がないため、放射線はスルスルと通り抜けます。その結果、背後に置いたフィルムには、その空洞の形がくっきりと黒い影として焼き付けられるのです。
このように、RTとは「モノを壊さずに、影絵の原理を使って中身を透かして見る」技術なのです。
放射線透過試験 (RT)の仕組み原理
では、実際の現場ではどのように検査が行われているのでしょうか。ここでは、ガスパイプラインの溶接部分を検査するシーンを想定して、その具体的な流れを解説します。検査は、主に以下の4つのステップで行います。
セッティング(準備)
検査したいパイプの溶接部分を挟むように装置を配置します。パイプの外側に「放射線を出す装置(線源)」を置き、パイプの内側(あるいは反対側の外壁)に「フィルム」を貼り付けます。これが「カメラ」と「被写体」の関係になります。
照射(撮影)
周囲の安全を確認し、人の立ち入りを禁止した上で、放射線(X線またはガンマ線)を照射します。照射時間は、金属の厚さや材質によって数秒から数十分と様々です。この間、放射線は金属の原子とぶつかりながら進み、密度の低い「欠陥部分」をより多く通過してフィルムに到達します。
現像(可視化)
撮影が終わったフィルムを回収し、暗室や現像車の中で薬品処理を行います。昔ながらの写真現像と同じプロセスを経て、目に見えなかった放射線の痕跡が、白黒の画像として浮かび上がります。
判定(診断)
熟練の検査員が、「シャーカステン」と呼ばれる強い照明装置にフィルムをかざし、虫眼鏡を使って詳細に観察します。「この黒い点は気泡だ」「この細い線は溶け込み不足だ」といったように、規格に基づいて合否を判定します。
使用される装置の種類
現場では、主に2種類の装置が使われます。
まず、X線発生装置です。電気を通してX線を出す機械で、形状は巨大なプロジェクターのようなものから、持ち運び可能なポータブル型まであります。画像が鮮明ですが、電源が必要です。
もうひとつはガンマ線照射器です。これは電気を使わず、「イリジウム192」などの放射性同位元素から自然に出る放射線を利用します。電源のない山奥や高所作業に適していますが、常に放射線が出ているため、厳重な管理ができる鉛の容器に収納されています。
放射線透過試験 (RT)と他の試験との比較
非破壊検査には、超音波を使う「UT」や磁気を使う「MT」など様々な手法があります。なぜ、あえて手間の掛かる「RT」が選ばれるのでしょうか。ここでは、金属内部の検査によく使われる「超音波探傷試験 (UT)」と比較してみましょう。
| 比較項目 | 放射線透過試験 (RT) | 超音波探傷試験 (UT) |
|---|---|---|
| ① 傷の位置 | 内部の「体積のある傷」が得意 (気泡や砂噛みなど、丸い形の欠陥がよく写る) | 内部の「平らな傷」が得意 (ピシッと入った亀裂や割れに敏感に反応する) |
| ② アクセス | 両面へのアクセスが必要 (線源とフィルムで対象を挟む必要があるため) | 片面のみで可 (跳ね返ってきた音を拾うため、裏側に回る必要がない) |
| ③ 材質 | ほぼ全ての材質に適用可 (金属、プラスチック、セラミックスなど密度差があれば写る) | 音を通す材質に限定 (主に金属。コンクリートなどは専用機器が必要) |
| ④ 結果記録 | 画像データとして残る (誰が見てもわかる客観的な証拠になる) | 波形や数値が基本 (最新機器では画像化も可能だが、直感的な理解は難しい場合がある) |
| ⑤ ハードル | 安全管理が大変 (放射線を使うため、立入禁止区域の設定や資格者が必要) | 比較的安全 (人体に無害な音波を使うため、並行作業が可能) |
この表からわかるように、RTの最大の強みは「誰が見てもわかる画像として証拠が残る」点にあります。絶対に失敗が許されない重要インフラでRTが採用され続ける大きな理由です。
放射線透過試験 (RT)のメリットとデメリット
とても便利な手法である放射線透過試験 (RT)ですが、決して万能な手法ではありません。当然ながら得意なこともあれば、どうしても苦手なこともあります。
放射線透過試験 (RT)メリット
放射線透過試験 (RT)の最大のメリットは、何と言っても「視覚的なわかりやすさ」と「記録性」です。
超音波検査や渦電流検査では、結果が波形や数値で表示されることが多く、その解釈は検査員の技量に依存する部分が大きくなります。しかし、RTのフィルム(またはデジタル画像)は、そこに傷があれば黒く写ります。
専門家でなくても「ここに何かある」と認識できる客観性は、ガスの配管やプラントの設備など、第三者による監査が必要な場面で圧倒的な信頼性を発揮します。また、フィルムは数十年単位で保存できるため、将来何かあったときの検証資料としても極めて優秀です。
放射線透過試験 (RT)のデメリット
一方で、弱点もあります。まず、放射線は「進行方向に対して平行な薄い傷」を見つけるのが苦手です。薄いひび割れに対して真横から光を当てても影ができにくいのと同じで、亀裂の向きによっては見逃すリスクがあります。このような場合は、超音波検査の方が発見率が高くなります。
また、安全管理のコストも無視できません。放射線被ばくを防ぐため、検査中は周囲数十メートルを立入禁止にする必要があり、日中の混雑した工事現場では実施が困難です。そのため、RTの検査員は多くの人が眠る深夜に作業を行わざるを得ないことが多々あります。
さらに、原理的に「裏側にフィルムを置く」必要があるため、地中に埋まったままの管や、裏側に入れない複雑な構造物の検査には不向きです。
放射線透過試験 (RT)の具体的な活用事例
では、RTは具体的にどのような場所で、なぜ選ばれて使われているのでしょうか。代表的な3つのシーンをご紹介します。
1. 都市ガスの埋設配管
道路の下に埋められるガス管は、高い耐震性と気密性が求められます。溶接作業が終わると、土で埋め戻す前に必ずRTが行われます。
RTが選ばれる理由は、「永久保存できる記録」が必要だからです。万が一事故が起きた際、「施工時は確実に欠陥がなかった」ことを証明するフィルムは、事業者にとっても社会にとっても重要な保険となります。
2. 原子力・火力発電所の配管
発電所内には、高温高圧の蒸気が通る配管が迷路のように走っています。
配管の「減肉(腐食して薄くなること)」を調べるためにRTが使われます。保温材の上から撮影することで、配管を分解したり保温材を剥がしたりすることなく、運転中の状態に近いまま内部の腐食状況や異物の詰まりを確認できる点が評価されています。
3. 文化財の内部調査
少し変わったところでは、仏像や工芸品の調査にも使われます。
貴重な文化財は絶対に傷つけられません。RTを使えば、仏像の内部にある空洞の構造や、芯に使われている木材の継ぎ方、あるいは胎内に納められたお経や古銭などを、一切手を触れずに解明することができます。
社会を支える放射線透過試験 (RT)の重要性
放射線透過試験 (RT)は、完成してしまえば誰の目にも触れることのない「内側」にある真実を写し出す技術です。
最後に、この記事で解説した放射線透過試験 (RT)に関する情報を一覧にまとめますので、この手法の特徴について確認してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手法の正式名称 | 放射線透過試験 (Radiographic Testing: RT) |
| 検出原理 | 物質の密度差による放射線の吸収量の違いを利用し、影絵のように画像化する。 |
| 主な検査対象 | 金属全般(鉄、アルミ、ステンレスなど)、コンクリート、樹脂など。 |
| 発見できる傷 | 主に内部の体積を持つ傷(気泡、スラグ巻き込み、大きな割れなど)。 |
| 最大の長所 | 検査結果が画像として残り、誰が見ても客観的な判断や記録保存が可能。 |
| 主な弱点 | 放射線管理が必要で実施ハードルが高い。対象の両側に機材を配置する必要がある。 |
