赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)とは?熱で異常を見つける非破壊検査の手法を解説
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)は、物体から放射される「熱(赤外線)」を専用のカメラで捉え、温度の分布を色鮮やかな画像として表示することで、異常発熱や温度変化を見つけ出す検査技術です。
老朽化したビルの外壁タイルが落下したり、工場の電気設備がショートして火災が起きたりする事故などは突然起きるように見えますが、実はその直前に「熱」という形でSOSサインを出していることが多くあります。しかし、熱は目には見えません。
こうした「触れられない場所の熱」を、離れた場所から一瞬で可視化するのが、この赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)です。テレビのニュースや空港の入り口で、人の体温を色で表示しているモニターを見たことがあるでしょう。あれと同じ技術を使って、建物や設備の健康診断を行っているのです。
この記事では、熱の分布を画像化して安全を守る、赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)について詳しく解説します。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)の基本概念:身近な例でイメージする

「赤外線サーモグラフィ」という言葉は少し長く感じますが、その正体は私たちがここ数年で非常によく目にするようになった、あの技術そのものです。
その原理を一言で表現するならば、こうなります。
「空港やイベント会場にある、体温測定カメラ」
コロナ禍以降、商業施設やオフィスの入り口で、モニターに自分の顔が映り、おでこの部分に「36.5℃」と表示される装置を通った経験が、誰にでもあるはずです。あれがサーモグラフィです。
人間を含め、この世にあるすべての物体は、温度に応じた「赤外線」という目に見えない光を出しています。
太陽の光が暖かいのも、電気ストーブが暖かいのも、赤外線が出ているからです。逆に、冷たい氷も、人間よりは弱いですが赤外線を出しています。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)は、この「物体が出している赤外線の量」をカメラでキャッチし、強いところ(熱いところ)を「赤」、弱いところ(冷たいところ)を「青」というように、人間が直感的に分かる色に置き換えて表示します。
もし、工場の配電盤の中に、ネジが緩んで接触不良を起こしているケーブルがあったらどうなるでしょうか。そこは電気抵抗で熱を持ちます。肉眼で見ても黒いケーブルのままですが、サーモグラフィで見ると、その一点だけが真っ赤に光って見えます。
「あそこが熱い!このままだと燃える!」と、火が出る前に発見できるのです。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)の仕組みと原理
では、実際の検査現場ではどのように作業が進められるのでしょうか。ここでは、ビルの外壁タイルが剥がれ落ちそうになっていないかを調べる「外壁調査」を例に解説します。検査は、主に以下のプロセスで行われます。
撮影(スキャニング)
検査員は、ビデオカメラのような形をした「サーモグラフィカメラ」を持ち、建物の外壁に向けます。特別な準備は必要ありません。カメラを向けて、ピントを合わせるだけで、液晶画面には外壁の温度分布がリアルタイムで表示されます。
画像の解析(診断)
検査員は、撮影された画像を確認します。壁一面が均一な温度(同じ色)であれば正常です。
しかし、一部だけが「赤い斑点」のように高温になっていれば、「この裏側に隙間がある(浮いている)」と判断できます。逆に、雨漏りしている場所は、水分が蒸発するときの気化熱で冷やされるため、周囲より低温の「青いシミ」として映ります。
判定
現場で異常が見つかれば、その場所を写真として保存します。可視画像(普通のデジカメ写真)と熱画像(サーモ画像)を並べて報告書を作成し、「ここのタイルが危険です」と建物のオーナーに伝えます。
使用される装置の種類
手持ちの「ハンディタイプ」が主流ですが、最近ではスマートフォンに取り付ける小型タイプや、ドローンに搭載して上空から太陽光パネルの故障を見つける空撮タイプも普及しています。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)と他の試験との比較
非破壊検査には、さまざまな手法がありますが、IRTのように「面」で捉える技術は貴重です。ここでは、同じように温度を測る道具である「接触式温度計(スポット測定)」と比較します。
| 比較項目 | 赤外線サーモグラフィ試験 (IRT) | 接触式温度計(熱電対など) |
|---|---|---|
| ① 測定範囲 | 「面」で捉える (広い範囲を一瞬で撮影し、全体の分布を見ることができる) | 「点」で測る (センサを当てたその一点の温度しか分からない) |
| ② 測定方法 | 「非接触」 (離れた場所から測定できるため、高所や高圧部も安全) | 「接触」 (対象物に触れる必要があるため、足場や絶縁保護具が必要) |
| ③ 結果記録 | 「画像」として残る (どこが熱いかが視覚的に一目瞭然) | 「数値」のみ (「300℃」という記録は残るが、それがどの場所かは別途記録が必要) |
| ④ 発見能力 | 未知の異常を見つけやすい (どこが悪いか分からなくても、画面を見れば異常箇所が光る) | 異常箇所の特定が難しい (怪しい場所をあらかじめ知っていないと、センサを当てられない) |
| ⑤ 精度 | 環境に左右される (太陽光の反射や風の影響を受けやすく、絶対値の精度はやや劣る) | 高精度 (直接触れるため、環境の影響を受けにくく正確な値が出る) |
この表からわかるように、IRTは「どこが悪いか分からない広い範囲」から、異常箇所を素早くあぶり出すスクリーニング検査に圧倒的な強さを発揮します。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)のメリットとデメリット
まるで透視能力のように便利な赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)ですが、あくまで「表面の温度」を見ているだけであるため、使用には注意が必要です。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)のメリット
最大のメリットは「安全かつ広範囲を瞬時に検査できること」です。
足場を組まなくても地上の離れた場所からビルの高いところを検査できますし、稼働中の電気設備に触れることなく、安全な距離から過熱チェックができます。
また、結果が「色」で表示されるため、専門家でなくても「ここが赤いからおかしい」と直感的に理解しやすい点も大きな魅力です。報告書を見せたときに、顧客(建物のオーナーなど)が納得しやすい技術でもあります。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)のデメリット
最大の弱点は「表面温度しか分からない」ことです。
例えば、分厚い断熱材の奥にある配管の異常や、熱が伝わりにくい材料の内部欠陥は、表面温度に変化が出ないため発見できません。「熱が表面まで伝わってくる現象」に限られます。
また、「反射」や「放射率」の影響を強く受けます。ピカピカに磨かれたステンレスやアルミは、鏡のように周囲の熱源(太陽や照明)を反射してしまうため、カメラには「高い温度」として誤って映ることがあります。
さらに、屋外での検査は天候に左右されます。雨の日は気化熱で冷えてしまいますし、風が強い日も温度差が消えてしまうため、正確な診断ができません。
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)の具体的な活用事例
IRTは、熱が発生する、あるいは熱が変わるあらゆる場所で活躍しています。
1. 電気設備の保安検査
工場の変電所や、ビルの分電盤の点検です。
何百本もあるケーブルやスイッチの端子を一つひとつ触って確認するのは危険で時間もかかります。サーモグラフィを使えば、盤の扉を開けてカメラを向けるだけで、緩んで発熱している端子を一発で見つけ出せます。火災事故を防ぐための最も有効な手段のひとつです。
2. 建築物の外壁診断(定期報告)
マンションやオフィスビルは、法律で定期的な外壁調査が義務付けられています。
昔は作業員がゴンドラに乗り、ハンマーで壁を叩いて音を聞く「打音検査」が主流でしたが、現在はサーモグラフィによる調査が増えています。足場やゴンドラが不要なため、低コストかつ短期間で、住民のプライバシーを守りながら検査が可能です。
3. 工業炉や断熱材の診断
製鉄所の溶鉱炉や、化学プラントの加熱炉などは、内部が数千度になります。
もし壁の耐火レンガが割れていたら、そこから熱が漏れ出し、外壁が赤熱して事故になります。サーモグラフィで外壁を監視することで、「どこから熱が漏れているか」を早期に発見し、補修計画を立てることができます。
社会を支える赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)の重要性
赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)は、物質が発する熱のエネルギーを「色」に変換し、私たちに危険を知らせてくれる技術です。
電気火災の予兆も、外壁落下の危険も、目には見えませんが、必ず「温度の変化」として現れています。
街中でカメラのような機械を建物に向けている人を見かけたら、それは撮影をしているのではなく、建物の体温を測っているのかもしれません。触れずに、壊さずに、遠くから見守るこの技術は、効率性と安全性が求められる現代社会において、なくてはならない「熱の番人」なのです。
最後に、この記事で解説した赤外線サーモグラフィ試験 (IRT)に関する情報を一覧にまとめてご紹介します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手法の正式名称 | 赤外線サーモグラフィ試験 (Infrared Thermography: IRT) |
| 検出原理 | 物体から放射される赤外線エネルギーを検出し、温度分布を画像化する。 |
| 主な検査対象 | 建築物(外壁)、電気設備(受変電設備)、断熱設備など。 |
| 発見できる傷 | 異常発熱(ショート、摩擦)、断熱不良、タイルの浮き、漏水。 |
| 最大の長所 | 非接触で広範囲を一瞬で検査できる。結果が視覚的で分かりやすい。 |
| 主な弱点 | 表面温度しか測定できない。金属光沢面や天候の影響を受けやすい。 |
