渦電流探傷試験 (ET)とは?電気と磁気を使う非破壊検査の手法を解説
渦電流探傷試験 (ET)は、「電磁誘導」という物理現象を利用して、金属の表面やその直下にある傷を、電気信号の変化として瞬時に見つけ出す検査技術です。
発電所の巨大な熱交換器や、大型ビルの空調設備には、何千本、何万本という細い金属パイプが使われています。これら一本一本の内部が腐食していないか、あるいはひび割れていないかを検査する必要があるとしたら、どうすればよいでしょうか。ペンキを塗る時間もなければ、放射線を当てるスペースもありません。
こうした「膨大な数の金属部品」を、高速かつ高精度に診断するために選ばれるのが、渦電流探傷試験 (ET)です。物体に触れることなく、電気の力だけで異常を検知できるこの技術は、製造ラインの自動検査やプラントの保守点検において欠かせない非破壊検査のひとつです。
この記事では、電気と磁気の目に見えない渦を利用した非破壊検査の手法である渦電流探傷試験 (ET)について詳しく解説します。
渦電流探傷試験 (ET)とは?

「渦電流(うずでんりゅう)」という言葉は、日常生活ではあまり聞き馴染みがないかもしれません。しかし、その原理は私たちのキッチンのすぐそばにあります。
その原理を一言で表現するならば、こうなります。
「IHクッキングヒーターと同じ原理を利用した技術」
皆さんのご家庭にあるIHヒーターは、火を使わないのに鍋が熱くなります。これは、プレートの下にあるコイルに電気を流し、磁気の力で鍋の底に「電気の渦(渦電流)」を発生させているからです。金属の中で電気が渦を巻いて流れるときの抵抗で、熱が発生しているのです。
渦電流探傷試験 (ET)は、この現象を検査に応用しています。
もし、IHヒーターの上に置いた鍋底に「ひび割れ」があったらどうなるでしょうか。電気の渦はひび割れ(電気を通さない隙間)に邪魔をされ、きれいに渦を巻くことができません。すると、電流の流れ方が変わり、同時にコイルにかかる負担(インピーダンス)も微妙に変化します。
ETの検査装置は、鍋を温めるほどの強い電気は流しませんが、微弱な電流を流したコイルを金属に近づけ、そこに発生する渦電流の乱れを監視しています。「きれいな渦が巻けていれば正常」「渦が乱れたら異常あり」と判断するのです。
金属探知機がポケットの中のコインを見つけるのと同じように、ETは金属の表面にある「電気の流れを邪魔する傷」を見つけ出します。
渦電流探傷試験 (ET)の仕組みと原理
では、実際の検査現場ではどのように作業が進められるのでしょうか。ここでは、発電所の熱交換器に使われる「細い真鍮(しんちゅう)製パイプ」の保守点検を例に解説します。検査は、主に以下のプロセスで行われます。
コイルへの通電と磁界の発生
まず、検査装置(プローブ)の先端にあるコイルに交流電流を流します。すると、コイルの周りには目に見えない「磁界」が発生します。磁石の力が働いている空間ができると考えてください。
渦電流の発生
このコイルを金属パイプの中に挿入します。すると、電磁誘導という現象によって、パイプの壁面にコイルの電流とは逆向きの「渦電流」が発生します。パイプの壁の中で、電気がグルグルと渦を巻いて流れている状態です。Shutterstock
傷による乱れの検知
検査員は、コイルをパイプの中でスーッと移動させていきます。パイプが健康であれば、渦電流は一定の強さで流れ続けます。
しかし、もしパイプの内側や外側に「腐食」や「割れ」があると、そこは電気の通り道が狭くなるため、渦電流の流れが妨げられます。川の流れの中に大きな石があると、水の流れが乱れるのと似ています。
信号の表示と判定
渦電流が乱れると、その影響がブーメランのようにコイルへと返ってきます(コイルの電気抵抗などが変化します)。検査装置はこのわずかな変化をキャッチし、モニター上に信号(リサージュ波形など)として表示します。
検査員は、モニター上の波形の動きを見て「この位置のパイプが薄くなっている(減肉)」「ここに穴が空きそうだ」と瞬時に判定します。
使用される装置の種類
パイプの中を通す「ボビンコイル型」や、表面をなぞる「ペンシル型」、あるいは部品を穴に通す「貫通コイル型」など、検査対象の形に合わせて様々な形状のコイル(プローブ)が使い分けられます。
渦電流探傷試験 (ET)と他の試験との比較
非破壊検査には、表面の傷を見つける手法として「浸透探傷試験 (PT)」や「磁粉探傷試験 (MT)」があります。ここでは、同じ表面検査でありながら性格の異なる「浸透探傷試験 (PT)」と比較します。
| 比較項目 | 渦電流探傷試験 (ET) | 浸透探傷試験 (PT) |
|---|---|---|
| ① 材質 | 「導電体(電気を通すもの)」のみ (金属やカーボンはOKだが、プラスチックやガラスは不可) | 「非多孔質」なら何でもOK (金属、ガラス、セラミックスなど電気を通さなくても可) |
| ② 接触 | 「非接触」で検査可能 (コイルを近づけるだけで良いため、塗装の上からでも検査できる) | 液体を塗るため接触必須 (表面に液体を塗り、拭き取る作業が必要) |
| ③ 検査速度 | 非常に高速 (プローブを走らせる速さで検査できる。自動化に最適) | 時間がかかる (液が染み込む時間や、乾燥時間が必要) |
| ④ 消耗品 | なし (電気を使うだけなので、廃液やゴミが出ない) | あり (洗浄液、浸透液、現像液などの薬剤を消費する) |
| ⑤ 記録 | 電気信号(波形)で保存 (デジタルデータとして管理・解析しやすい) | 写真または目視 (傷が赤く浮かび上がるため直感的だが、データ化には撮影が必要) |
この表からわかるように、ETは電気を通す材料に対して、圧倒的なスピードとクリーンな環境で検査ができるハイテクな手法です。
渦電流探傷試験 (ET)のメリットとデメリット
接触せずに高速で検査ができる渦電流探傷試験 (ET)ですが、電気の特性を利用するがゆえの明確な得意・不得意があります。
渦電流探傷試験 (ET)のメリット
最大のメリットは「高速かつ非接触であること」です。
液体を塗ったり、磁石を当てたりする必要がないため、プローブを動かすだけで連続的に検査が可能です。これは、何万本ものパイプを検査するプラントや、ベルトコンベアで流れてくる自動車部品を全数検査する工場ラインにおいて、他の手法では代えがたい強みとなります。
また、表面の汚れや塗装の影響を受けにくい点も魅力です。塗装の厚さが均一であれば、ペンキを剥がさずにその下の金属の亀裂を発見できます。さらに、傷だけでなく、材質の違いや熱処理の状態(硬さ)などを判別することも可能です。
渦電流探傷試験 (ET)のデメリット
最大の弱点は「電気を通さない材料には使えない」ことです。
プラスチック、ガラス、ゴム、セラミックスなどは渦電流が発生しないため、検査不能です。
また、「表皮効果」という現象により、検査できる深さに限界があります。周波数が高いほど電流は表面に集中するため、金属の深い内部にある傷は見つけることができません(深い傷には超音波検査などが適しています)。
そして、ノイズに敏感であることも課題です。プローブの振動や、対象物との距離のわずかな変化(リフトオフ)が信号に影響を与えるため、安定した検査をするには高度な設定技術や装置の精度が求められます。
渦電流探傷試験 (ET)の具体的な活用事例
ETは、そのスピードと非接触の特性を活かし、大量の製品や重要な設備を守るために活躍しています。
1. 熱交換器パイプの保守検査
発電所や化学プラントの熱交換器には、冷却水を通すための細いパイプが数千本束ねられています。
定期点検では、これらすべてのパイプの中にETのプローブを通し、海水による腐食や振動による摩耗がないかを高速でチェックします。この検査のおかげで、パイプに穴が空いてトラブルが起きるのを未然に防ぐことができます。
2. 自動車部品の材料判別・探傷
ボルト、ナット、ベアリングなどの自動車部品は、秒単位で大量生産されます。
製造ラインの中にETのコイルを設置し、そこを部品が通過する瞬間に「ひび割れはないか」「熱処理(焼き入れ)は正しくされているか」を全自動で判定します。不良品があれば瞬時にラインから弾き出されます。
3. 航空機の機体検査
飛行機の機体(アルミ合金)は、塗装されています。
ETは塗装の上からでもアルミの亀裂を検知できるため、リベット(留め具)周辺の微細なひび割れ検査などに広く使われています。塗装を剥がす手間がいらないため、整備時間の短縮に大きく貢献しています。
社会を支える渦電流探傷試験 (ET)の重要性
渦電流探傷試験 (ET)は、電気と磁気という目に見えないエネルギーのダンスを利用して、金属のわずかな変化を読み取る技術です。
派手な色の液体も、重厚な鉛の扉も使いませんが、そのスピードと精密さは現代の大量生産社会や巨大プラントの維持になくてはならないものです。
私たちが快適にエアコンを使えるのも、安全に車に乗れるのも、目に見えない電気の渦が、金属部品の安全を絶えず監視してくれているおかげなのです。
最後に、この記事で解説した渦電流探傷試験 (ET)に関する情報を一覧にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手法の正式名称 | 渦電流探傷試験 (Eddy Current Testing: ET) |
| 検出原理 | 電磁誘導により発生させた渦電流の変化を検出する。 |
| 主な検査対象 | 導電体(鉄、アルミ、銅、チタンなどの金属)。 |
| 発見できる傷 | 表面および表面直下の傷、材質の変化。 |
| 最大の長所 | 非接触で高速検査が可能。塗装の上からでも検査できる。 |
| 主な弱点 | 電気を通さない材料は不可。深い位置の傷は見つけにくい。 |
