磁粉探傷試験 (MT)とは?磁石を使った非破壊検査の手法を解説

磁粉探傷試験-(MT)とは?磁石を使った非破壊検査の手法を解説

磁粉探傷試験 (MT)は、磁石の吸着力と微細な鉄の粉を利用して、鉄鋼材料の表面にある、目に見えないほどの小さなひび割れや傷を鮮明に浮かび上がらせる検査技術です。

自動車のエンジン部品や、遊園地のジェットコースター、あるいは巨大な橋の溶接部分。これらは常に強い力や振動にさらされており、金属疲労による微細な亀裂が発生するリスクと隣り合わせです。

こうした表面の危機を、磁石の不思議な力を使って発見するのが、この磁粉探傷試験 (MT)です。

この記事では、磁気と鉄粉を使用した非破壊検査の手法である磁粉探傷試験 (MT)について詳しく解説します。

磁粉探傷試験 (MT)とは?

磁粉探傷試験-(MT)とは?

「磁粉探傷」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、その原理は小学校の理科の実験で誰もが一度は目にしたことのある現象に基づいています。

その原理を一言で表現するならば、こうなります。

「傷を磁石に変えて、砂鉄を集める技術」

皆さんは、紙の上に砂鉄を撒いて、下から磁石を当てた実験を覚えているでしょうか? 磁石の周りに砂鉄が集まり、綺麗な模様(磁力線)を描きます。磁粉探傷試験 (MT)は、この「磁石に鉄粉が吸い寄せられる性質」を巧みに利用しています。

鉄の棒が一本あるとします。これを強力な装置で磁化させると、鉄の棒全体が磁石になります。もし、この鉄の棒が健康であれば、磁気の流れは鉄の中をスムーズに通り抜けます。

しかし、もし表面に「ひび割れ」があったらどうなるでしょうか?

磁気の流れはひび割れ(空気の層)を通ることが苦手なため、傷の場所で鉄の外側へ漏れ出そうとします。すると、その「傷の部分」だけが、一時的にN極とS極を持った「小さな磁石」になってしまうのです。

ここに、蛍光塗料を塗った微細な鉄粉(磁粉)を振りかけます。すると、鉄粉は傷から漏れ出た磁気に吸い寄せられ、傷の上に集まります。肉眼では見えない0.1ミリの傷でも、そこに何千個もの鉄粉が密集することで、目に見える「太い線」となって現れるのです。

これが、磁粉探傷試験 (MT)が傷を見つける基本的な仕組みです。

磁粉探傷試験 (MT)の仕組みと原理

では、実際の検査現場ではどのように作業が進められるのでしょうか。ここでは、自動車部品の工場や、橋梁の点検現場で行われる標準的な手順を例に解説します。検査は、主に以下の4つのステップで行います。

前処理(表面の清掃)

まず、検査したい金属の表面を綺麗にします。油汚れや分厚い錆、剥がれかけた塗装などが残っていると、鉄粉の動きを邪魔してしまい、正しい模様が現れません。ウエスで拭き取ったり、ワイヤーブラシで磨いたりして、磁粉がスムーズに動ける状態を作ります。

磁化(磁気をかける)

次に、検査対象物を磁石にします。現場で最もよく使われるのは「極間法(ヨーク法)」と呼ばれる方法です。U字型をした大きな電磁石(ハンドマグナ)を、検査したい場所にガチャンと当て、スイッチを入れて強い磁界を発生させます。これにより、2つの電極に挟まれた部分の鉄が瞬間的に磁石になります。

適用(磁粉の散布)

磁気をかけている間に、検査液(磁粉を含んだ水や油)をスプレーで吹き付けます。

検査液には大きく分けて2種類あります。明るい場所で黒い鉄粉を使う「非蛍光磁粉」と、暗い場所でブラックライトを当てると光る「蛍光磁粉」です。微細な傷を見つける必要がある精密検査では、主に蛍光磁粉が使われます。傷がある場所には、磁粉がみるみるうちに吸着していきます。

観察(模様の確認)

磁粉の散布を止めた直後に、表面を観察します。蛍光磁粉を使っている場合は、周囲を暗くしてブラックライト(紫外線)を照射します。

すると、傷の部分に集まった磁粉が、黄緑色に鮮やかに発光します。検査員は、この光る線(磁粉模様)の長さや形を確認し、「表面に長さ15mmの亀裂あり」と判定します。

後処理(脱磁)

検査が終わったあとの部品は、磁気を帯びたままになっています。そのままにしておくと、加工中に鉄粉を吸い寄せて機械を壊したり、溶接がうまくできなくなったりします。そのため、最後に「脱磁機」という装置に通して、磁気を完全に取り除く作業が行われます。

使用される装置の種類

最もポータブルで一般的なのが「極間式磁粉探傷器(ハンドヨーク)」です。取っ手のついた大きなホッチキスのような形状をしており、両端を金属に押し当てて使います。

また、工場内のライン検査では、部品全体をコイルの中に通して一瞬で磁化させる大型の「コイル式磁化装置」なども活躍しています。

磁粉探傷試験 (MT)と他の試験との比較

非破壊検査には、「超音波探傷試験 (UT)」や「浸透探傷試験 (PT)」など、さまざまな手法があります。ここでは、金属の内部を調べる「超音波探傷試験 (UT)」と比較します。

比較項目磁粉探傷試験 (MT)超音波探傷試験 (UT)
① 傷の位置「表面」および「表面直下」が得意
(目に見えない極めて浅いヒビを、鮮明に拡大して表示する)
「内部」の傷が得意
(表面の傷は不感帯となり見つけにくい場合がある)
② 材質「強磁性体(磁石につく金属)」のみ
(鉄やニッケルは検査できるが、アルミやステンレスは不可)
音を通す材質なら広く適用可
(金属全般、アルミやステンレスも検査可能)
③ 検出能力複雑な形状でも検査しやすい
(表面のデコボコや曲面があっても、磁粉は傷に集まる)
形状が複雑だと難しい
(表面が曲がっていると音が真っ直ぐ入らず、検査が困難)
④ 結果記録写真撮影で記録可能
(傷そのものが模様として浮かび上がるため、誰が見てもわかる)
波形や数値が基本
(波形を解釈する専門知識が必要)
⑤ 前処理塗装の上からでも検査可能
(薄い塗膜なら磁気は通るため、ペンキを剥がさなくて良い場合がある)
表面の接触が重要
(錆や塗膜は音の邪魔になるため、除去が必要な場合が多い)

この表からわかるように、MTは鉄製品の表面検査に適した非破壊検査の手法です。

磁粉探傷試験 (MT)のメリットとデメリット

非常に鮮明に傷を見つけることができる磁粉探傷試験 (MT)ですが、物理的な制約も多いため、メリットとデメリットがあります。

磁粉探傷試験 (MT)のメリット

最大のメリットは「微細な表面傷の検出能力」です。

肉眼では全く見えない、髪の毛よりも細い「閉じた亀裂(隙間が空いていない傷)」であっても、磁気が漏れ出していれば磁粉が集まるため、くっきりと発見することができます。この感度の高さは、他の表面検査手法(浸透探傷試験など)よりも優れています。

また、「即効性」も魅力です。磁気をかけてスプレーするだけなので、数秒で結果が出ます。乾燥時間を待つ必要がないため、大量の部品を次々と検査する自動車工場のラインなどでは欠かせない技術となっています。

さらに、薄い塗装であれば剥がさずに検査ができるため、検査の手間とコストを大幅に削減できる点も現場から支持されています。

磁粉探傷試験 (MT)のデメリット

最大の弱点は「磁石につく金属しか検査できない」ことです。

世の中にはアルミ、銅、ステンレス(一部を除く)、チタンなど、磁石につかない金属がたくさんありますが、これらにMTは一切使えません。

また、「方向性」の問題もあります。磁気の流れに対して「直角」にある傷はよく見つかりますが、磁気の流れと「平行」にある傷は、磁気を遮らないため磁束が漏れず、発見できません。そのため、検査漏れを防ぐには、磁気の向きを変えて最低2回は検査する必要があります。

そして、検査後の「脱磁」や「洗浄」の手間もデメリットの一つです。付着した鉄粉や磁気を綺麗に取り除かなければ、製品の品質に悪影響を与えてしまうからです。

磁粉探傷試験 (MT)の具体的な活用事例

MTは、鉄を扱うあらゆる産業の現場で、安全の「最後の砦」として機能しています。

1. 自動車部品(クランクシャフト・カムシャフト)

エンジンの心臓部であるクランクシャフトなどは、複雑な形状をしており、かつ極めて高い強度が求められます。製造ラインの最終工程では、全数に対してMT(蛍光磁粉探傷)が行われます。

暗室の中でブラックライトに照らされ、わずかな亀裂も光って浮かび上がる様子は、日本の自動車品質を支える象徴的な光景です。

2. 橋梁や鉄骨建築の溶接部

橋やビルを建設する際の溶接作業。ここでは、溶接の表面に割れがないかをMTで確認します。

特に、塗装の塗り替え工事などのメンテナンス時において、既存の古い塗膜の上からでも(一定の厚さまでは)亀裂をチェックできるMTは、作業効率の面でも重宝されています。ヨーク(電磁石)を持って足場を移動する検査員の姿は、建設現場の日常風景です。

3. 遊園地のジェットコースター

私たちの命を乗せて走るジェットコースター。その車軸やレールの接続部には、走行中に凄まじい負荷がかかります。

休園日や定期点検の期間には、重要部品が取り外され、MTによる精密検査が行われます。楽しい絶叫マシンの安全は、磁石と鉄粉による地道なチェックによって保証されているのです。

社会を支える磁粉探傷試験 (MT)の重要性

磁粉探傷試験 (MT)は、鉄という素材が持つ「磁気」の性質を巧みに利用し、目に見えない危険信号を可視化する技術です。

最後に、この記事で解説した磁粉探傷試験 (MT)に関する情報を一覧にまとめます。

項目内容
手法の正式名称磁粉探傷試験 (Magnetic Particle Testing: MT)
検出原理傷から漏れ出る磁束に磁粉が吸着し、模様を描く現象を利用する。
主な検査対象強磁性体(鉄、ニッケル、コバルトなど)。アルミやステンレスは不可。
発見できる傷表面および表面直下の傷(極めて微細な亀裂も発見可能)。
最大の長所表面の傷に対する検出感度が非常に高い。結果が即時に目視できる。
主な弱点磁石につかない材料には使えない。脱磁処理が必要。